外郎売

声優のオーディションをエントリーする方は
外郎売で滑舌や表現力を身につけましょう。

歌舞伎演目のひとつ。
「外郎売」というと、劇中に出てくる外郎売が「透頂香」という薬を宣伝するための述べる口上を指すことが多い。次々と薬の効能や特徴を述べる口上には役者に必要な滑舌や表現力を鍛えるための要素が満載のため、昔から教材としてよく利用されている。1,800字程度の台詞だが、有名大女優さんも全て覚えて毎日やっている事ですので覚えておくべき。
声優のオーディションを受けるならば表現力を鍛える為にも抑えておくべきかと思います。

外郎売

第一節

せっしゃおやかたともうすは、 おたちあいのうちに、
拙者親方と申すは、 お立会の中うちに、
ごぞんじのかたも ござりましょうが、
御存じのお方もござりましょうが、
おえどをたって にじゅうりかみがた、
お江戸を発たって二十里上方、
そうしゅうおだわら いっしきまちを おすぎなされて、
相州小田原一色町をお過ぎなされて、
あおものちょうを のぼりへ おいでなさるれば、
青物町を登りへおいでなさるれば、
らんかんばし とらやとうえもん
欄干橋虎屋藤衛門、
ただいまは ていはついたして、えんさいとなのりまする。
只今は剃髪致して、円斉と名のりまする。
がんちょうより、おおつごもりまで、おてにいれまする このくすりは
元朝より、大晦日まで、お手に入れまする此の薬は、
むかし ちんのくにのとうじん、ういろうというひと、わがちょうへきたり
昔ちんの国の唐人、外郎という人、わが朝ちょうへ来たり、
みかどへ さんだいのおりから、
帝へ参内の折りから、
このくすりを ふかくこめおき、
この薬を深く籠こめ置き、
もちゆるときは いちりゅうずつ、
用もちゆる時は一粒ずつ、
かんむりの すきまより とりいだす。
冠のすき間より取り出いだす。
よってそのなをみかどより、とうちんこうとたまわる。
よってその名を帝より、透頂香と賜わる。
すなわちもんじには、いただき、すく、においとかいて「とうちんこう」ともうす。
即文字には「頂き、透く、香い」と書いて「透頂香」と申す。
ただいまはこのくすり、ことのほか せじょうにひろまり、
只今はこの薬、殊の外ほか、世上に弘まり、
ほうぼうに にせかんばんを いだし
方々に偽看板を出いだし、
いや、おだわらの、はいだわらの、さんだわらの、すみだわらのと、いろいろもうせども
イヤ、小田原の、灰俵の、さん俵の、炭俵のと、いろいろに申せども、
ひらがなをもって「ういろう」としるせしは、おやかた えんさいばかり。
平仮名をもって「ういろう」と記せしは、親方円斉ばかり。
もしや おたちあいのうちに、あたみかとうのさわへ、とうじにおいでなさるるか、
もしやお立会いの中うちに熱海か塔の沢へ、湯治にお出なさるるか、
または いせごさんぐうの おりからは、
または伊勢御参宮の折からは、
かならず かどちがい なされまするな。
必ず門違かどちがいなされまするな。
おのぼりならば みぎのかた、おくだりなれば ひだりがわ
お上ならば右の方、お下りなれば左側、
はっぽうが やつむね、おもてが みつむね ぎょうくどうづくり。
八方が八つ棟、表が三つ棟玉堂造り。
はふには きくにきりのとうの ごもんごしゃめんあって
破風には菊に桐のとうの御紋を御赦免あって、
けいずただしき くすりでござる。
系図正しき薬でござる。

 

第二節

いや さいぜんより かめいの じまんばかり もうしても、
イヤ最前より家名の自慢ばかり申しても、
ごぞんじないかたには、しょうしんの こしょうのまるのみ、
ご存知ない方には、正身の胡椒の丸呑み、
しらかわよふね、さらば いちりゅう たべかけて そのきみあいを おめにかけましょう。
白河夜船、さらば一粒食べかけてその気味合いをお目にかけましょう。
まず このくすりを かように ひとつぶ したのうえに のせまして、
先ずこの薬をかように一粒舌の上にのせまして、
ふくないへ おさめますると いや どうもいえぬは、
腹内へ納めまするとイヤどうも言えぬは、
い・しん・はい・かんが すこやかになりて
胃・心・肺・肝がすこやかになりて
くんぷう のんどより きたり、こうちゅう びりょうをしょうずるがごとし
薫風候より来たり、口中微涼を生ずるが如し。
ぎょ ちょう・きのこ・めんるいの くいあわせ、そのほか、まんびょう そっこうあること かみのごとし。
魚鳥・茸・麺類の食い合わせ、その外、万病速効ある事神の如し。
さて、このくすり、だいいちのきみょうには、
さて、この薬、第一の奇妙には、
したのまわることが、ぜんごまが はだしで にげる。
舌のまわることが、銭独楽がはだしで逃げる。
ひょっと したが まわりだすと、やもたても たまらぬじゃ。
ひょっと舌がまわり出すと、矢も楯もたまらぬじゃ。

 

第三節

そりゃそりゃ、そらそりゃ、まわってきたわ、まわってくるは。
そりゃそりゃ、そらそりゃ、まわってきたわ、まわってくるわ。
あわやのど、さたらなぜつに、かげさしおん、
アワヤ候、サタラナ舌に、カ牙サ歯音、
はまの ふたつは しんの けいちょう、かいごう さわやかに、
ハマの二つは唇の軽重、開合さわやかに、
あかさたな はまやらわ、おこそとの ほもよろお。
あかさたなはまやらわ、おこそとのほもよろお。
ひとつ へぎへぎに へぎほし はじかみ、ぼんまめ ぼんごめ ぼんごぼう
一つへぎへぎに へぎほし はじかみ、盆豆 盆米 盆ごぼう、
つみだて つみまめ つみざんしょ、しょしゃざんの しゃそうじょう
摘み蓼 つみ豆 つみ山椒、書写山の社僧正、
こごめの なかまがみ こごめのなまがみ こんこごめの こなまがみ、
粉米のなまがみ 粉米のなまがみ こん粉米の小生がみ、
しゅす・ひじゅす・しゅす・しゅちん、
繻子・ひじゅす・繻子・繻珍、
おやもかへい こもかへい、おやかへい こかへい こかへい おやかへい、
親も嘉兵衛 子も嘉兵衛、親かへい子かへい 子かへい親かへい、
ふるくりのきの ふるきりくち、あまがっぱか ばんがっぱか、
古栗の木の古切口、雨合羽か番合羽か、
きさまの きゃはんも かわきゃはん、われらが きゃはんも かわきゃはん、
貴様のきゃはんも皮脚絆、我等がきゃはんも皮脚絆、
しっかわばかまの しっぽころびを、みはり はりながに ちょと ぬうて、
しっ皮袴のしっぽころびを、三針はり長にちょと縫うて、
ぬうて ちょと ぶんだせ
ぬうてちょとぶんだせ、
かわらなでしこ のぜきちく、のらにょらい のらにょらい みのらにょらいに むのらにょらい、
河原撫子 野石竹、のら如来 のら如来 三のら如来に六のら如来。
ちょっと さきの おこぼとけに おけつまずきゃるな、ほそどぶに どじょ にょろり。
一寸先のお小仏に おけつまずきゃるな、細溝にどじょにょろり。
きょうの なまだら なら なま まながつお、ちょと しごかんめ、
京の生鱈 奈良生学鰹、 ちょと四五貫目、
おちゃたちょ ちゃたちょ ちゃっと たちょ ちゃたちょ、
お茶立ちょ茶立ちょちゃっと立ちょ茶立ちょ、
あおたけ ちゃせんで おちゃ ちゃと たちょ。
青竹茶筅でお茶ちゃと立ちょ。

 

第四節

くるは くるは なにがくる、こうやのやまの おこけらこぞう、
来るは来るは何が来る、高野の山の おこけら小僧、
たぬき ひゃっぴき はし ひゃくぜん てんもく ひゃっぱい ぼうはっぴゃっぽん
狸百匹 箸百膳 天目百杯 棒八百本。
ぶぐ・ばぐ・ぶぐ・ばぐ・みぶぐばぐ、あわせて ぶぐ・ばぐ・むぶぐ ばぐ、
武具・馬具・ぶぐ・ばぐ・三ぶぐばぐ、合わせて武具・馬具・六ぶぐばぐ、
きく・くり・きく・くり・みきく くり、あわせて きく・くり・むきく くり。
菊・栗・きく・くり・三菊栗、合わせて菊・栗・六菊栗、
むぎ・ごみ・むぎ・ごみ・みむぎ ごみ、あわせて むぎ・ごみ・むむぎごみ。
麦・ごみ・むぎ・ごみ・三むぎごみ、合わせてむぎ・ごみ・六むぎごみ。
あの なげしの ながなぎなたは、たがながなぎなたぞ。
あの長押の長薙刀は、誰が長薙刀ぞ。
むこうの ごまがらは えの ごまがらか、まごまがらか、
向こうの胡麻がらは 荏のごまがらか、真ごまがらか、
あれこそ ほんの まごまがら。
あれこそほんの真胡麻殻。
がらぴい がらぴい かざぐるま、おきゃがれ こぼし おきゃがれ こぼうし、
がらぴいがらぴい風車、おきゃがれこぼし おきゃがれ小法師、
ゆんべも こぼして また こぼした。
ゆんべもこぼして 又こぼした。
たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりから、ちりから、つったっぽ、
たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりから、ちりから、つったっぽ、
たっぽ たっぽ いっちょうだこ、おちたら にてくお
たっぽたっぽ一丁だこ、落ちたら煮て食お、
にても やいても くわぬものは、ごとくてっきゅう・かなぐまどうじに、
煮ても焼いても食わぬ物は、五徳鉄弓・かな熊童子に、
いしくま・いしもち・とらくま・とらきす、
石熊・石持ち・虎熊・虎きす、
なかにも とうじの らしょうもんには いばらきどうじが うでくり ごごう つかんで おむしゃる。
中にも 東寺の羅生門には 茨木童子がうで栗五合 つかんでお蒸しゃる。
かのらいこうの ひざもと さらず。
彼の頼光の膝元去らず。

 

第五節

ふな・きんかん・しいたけ、さだめて ごだんな、
鮒・金柑・椎茸、さだめて後段な、
そばきり、そうめん、うどんか、ぐどんな こしんぼち、
そば切り、そうめん、うどんか、愚鈍な小新発知、
こだなの、こしたの、こおけに、こみそが、こあるぞ、こしゃくし、こもって、
小棚の、小下の、 小桶に、こ味噌が、こ有るぞ、小杓子、こ持って、
こすくって、こよこせ、おっと がってんだ、こころえ たんぼの かわさき、
こ掬って、こよこせ、おっと合点だ、心得たんぼの川崎、
かながわ、ほどがや、とつかは、はしっていけば やいとをすりむく、
神奈川、程ガ谷、戸塚は、走って行けば灸を摺りむく、
さんりばかりか、ふじさわ、ひらつか、おおいそがしや、
三里ばかりか、藤沢、平塚、大礒がしや、
こいその やどを ななつ おきして、そうてん そうそう そうしゅう おだわら とうちんこう、
小磯の宿を七ツ起きして、早天早々相州小田原とうちん香、
かくれござらぬ きせん ぐんじゅの、はなの おえどの はな ういろう、
隠れござらぬ貴賎群衆の、花のお江戸の花ういろう、
あれ あのはなをみて おこころを、おやわらぎゃっという。
あれあの花を見てお心を、おやわらぎゃっという。
うぶこ、はうこに いたるまで、この ういろうの ごひょうばん、 ごぞんじないとは もうされまい。
産子、這う子に至るまで、此の外郎の御評判、ご存知ないとは申されまい。
まいつぶり、つのだせ、ぼうだせ、ぼうぼうまゆに、
まいつぶり、角出せ、棒出せ、ぼうぼうまゆに、
うす、きね・すりばち、ばちばち ぐわら ぐわらと、
臼・杵・すりばち、 ばちばちぐゎらぐゎらと、
はめを はずして こんにち おいでの いずれもさまに、あげねばならぬ うらねばならぬと、
羽目を弛して今日お出での何茂様に、上げねばならぬ売らねばならぬと、
いきせい ひっぱり、とうほう せかいの くすりの もとじめ、やくしにょらいも しょうらんあれと、
息勢引っぱり、東方世界の薬の元締め、薬師如来も照覧あれと、
ほほ うやまって、ういろうは、いらっしゃいませぬか。
ホホ敬って、ういろうは、いらっしゃいませぬか。